臨床工学室の業務
臨床工学室部門は平成15年4月1日から、あいち小児保健医療総合センター内で中央検査部所属、臨床工学室(ME室)の組織名で新たな部署として発足しました。主たる業務内容は体外循環業務として人工心肺業務、補助循環業務および血液浄化業務があります。また医療機器保守管理業務、医療機器修理業務などもおこなっています。現在の医療現場は多種多様の最先端高度医療機器が使用されており、それら医療機器を効率的かつ安全に稼動させることと医療機器による事故防止の一端を担っています。
体外循環業務
- 人工心肺
- 心臓血管外科手術の開心術(心臓手術)をおこなう場合一時的に生体の心臓および肺の機能を停止する必要があります。そのために術中の心臓および肺の代行装置として人工心肺装置を使用する必要があります。装置本体はあいち小児センター特注型(写真1)で新生児から成人まで対応できる装置を製作して臨床使用をおこなっています。人工心肺回路もあいち小児センター仕様で新生児用から成人用まで4種類のサイズを用意し、患者様に適した人工心肺回路を選択使用しています。(表1)
写真1 あいち小児センター特注型人工心肺装置
図1はあいち小児センターの回路模式図を示しています。回路充填量を軽減するため非常にシンプルな構成で1ポンプシステム低陰圧方式を採用しています。回路充填量は表1に示した量で主におこなっています。現在では小児ならびに乳幼児まで無輸血体外循環(他人の血液を使用しない)が積極的におこなわれており、当センターでも体重が5kg以上で症状が安定している疾患に対し無輸血体外循環を施行しています。また、新生児期手術に対し血液充填をおこなう場合には、体外循環開始前に充填血液中の有害物質の除去ならびに電解質補正等を目的に血液洗浄(HF)をおこなっています。
図1 あいち小児センター用人工心肺回路模式図
表1 人工心肺回路充填量(HF回路も含む)、最大使用灌流量基準 | |||
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人工心肺回路 | 人工肺 | 充填量 | 最大灌流量 |
新生児用回路 | 新生児用人工肺 | 350ml | 1000ml/min |
乳児用回路 | 乳児用人工肺 | 450ml | 2000ml/min |
小児用回路 | 小児用人工肺 | 600ml | 3000ml/min |
成人用回路 | 成人用人工肺 | 1200ml | 6000ml/min |
- 開心術時に使用される他の医療機器
- 心臓手術をおこなう場合多くの医療機器を使用します。通常、手術時に使用される麻酔器、マルチモニタ、電気メス等に加え、人工心肺装置、心筋保護装置等以外にも写真2~5に示した装置も使用しています。
写真2 自己血回収装置
無輸血体外循環時に全例使用します。写真3 脳内酸素飽和度計
体外循環中の変化を監視します。
写真4 除細動装置(左)、超音波診断装置(右)
超音波診断装置は術中経食道プローベを使用しています。写真5 血液ガス分析装置とデータ転送装置
人工心肺操作中、ME管理の血液ガス分析装置は横において使用しています。
補助循環業務
生体が自分の心臓および肺臓器で生命維持ができなくなった場合補助循環装置で一時的にその臓器の役割を補助します。補助循環として主に循環補助と呼吸補助の種類があります。あいち小児センターでも開心術術後の離脱困難症とか急性期の循環、呼吸不全等に対して補助循環を施行しています。方法としてローラーポンプを使用した補助循環装置と遠心ポンプが準備されています。
写真6 補助循環
図2は補助循環回路の模式図を示しています。補助循環回路はあいち小児センター用特注回路を使用しています。回路充填量は約200mlで充填組成は開始時の条件で決めるようにしています。回路は閉鎖式循環回路で構成されています。また補助循環中は全例HFを併用し水分バランス、電解質補正など積極的におこなうように実施しています。
図2 補助循環回路の模式図
血液浄化業務
疾患により血液中に蓄積した病因物質は、何らかの方法で体外に排泄する事により、血液を浄化し治療する必要があります。これを血液浄化療法と言い、その種類は血液透析、持続的血液濾過透析、血漿交換、血漿吸着(LDL吸着)、血液吸着(顆粒球、エンドトキシン吸着)など多種類の治療法が現在一般的に施行されています。あいち小児センターでも主に急性期の血液浄化療法を中心におこなっており、緊急の患者様に対し上記治療法をおこなう準備がほぼ出来ています。新しい施設でもあり、まだまだ対象症例数が少ない現状ですが、徐々に症例数は増加してきている現状です。
写真7 血液浄化装置
CHDF,CHF,CHD,PE,PA,DHPおよびLDL吸着療法に使用します。
写真8 個人用人工透析装置
業務実績
臨床業務実績としては平成15年度6月から業務が開始され年々各臨床業務症例数は増加傾向である。特に開心術に施行される体外循環運転操作は症例数こそ緩やかな上昇ではあるが症例の内容はかなり重症度が高い疾患が多く実施されています。
表2 体外循環業務件数
区分 | H20年度 | H21年度 | H22年度 | H23年度 | H24年度 | |
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体外循環運転操作 | 人工心肺 | 101例 | 103例 | 103例 | 109例 | 109例 |
補助循環 | 9例 | 4例 | 4例 | 7例 | 8例 | |
血液浄化運転操作 | CHDF・HD | 102例 | 195例 | 160例 | 29例 | 44例 |
PE・DFPP | 74例 | 25例 | 43例 | 45例 | 62例 | |
その他 | モニタリング | 270例 | 260例 | 310例 | 373例 | 380例 |
人工呼吸器 | 251例 | 289例 | 339例 | 282例 | 380例 |
医療機器保守管理業務
あいち小児センター内で臨床工学室が管理している医療機器のおもだった装置を表3に示しました。各医療機器の運用方法は中央管理方式と使用頻度を考慮した部署配置方式を取っています。
表3 センター内の主な管理医療機器
品名 | 保有台数 | 品名 | 保有台数 |
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人工呼吸器 ICU、病棟用等 | 18台 | 輸液ポンプ | 104台 |
麻酔器 OR、心カテ室他 | 6台 | シリンジポンプ | 155台 |
マルチモニタ OR、ICU、NICU | 14台 | 経腸栄養用ポンプ | 8台 |
自動麻酔記録装置 OR | 4台 | 人工心肺装置 | 2台 |
自動看護記録装置 ICU | 8台 | 補助循環装置 | 2台 |
テレメーターシステム 病棟用 | 6台 | 血液浄化装置 | 4台 |
ベットサイドモニタ 病棟用 | 11台 | 自動血圧計(単体) | 5台 |
パルスオキシメーター(単体) | 15台 | 超音波ネブライザー | 5台 |
酸素テント | 2台 | 血液ガス分析装置 OR、ICU | 2台 |
写真9 中央管理されている医療機器
- 医療機器保守管理方法
-
使用後点検 臨床使用後、ME室に返却してもらい外観的な点検、動作および安全性に関する点検をおこない、正常に装置が作動することを確認します。また付属品の確認と補充をおこない、すぐに使用できる状態にして所定の位置に再度配置します。 定期点検 通常使用されている医療機器を使用後点検以外に、その性能、精度を維持、確認するために一定の期間を定め点検をします。対象となる医療機器は臨床上その重要性を考慮し定期点検の頻度を設定するようにしています。
表4は昨年実施した各医療機器の点検件数(使用後点検、定期点検を含む)を示しています。あいち小児保健医療総合センターの稼動年数がまだ少ないために医療機器の使用頻度もあまり多くありません。平成16年度に入り病棟数も増え徐々に医療機器の稼働率、稼動範囲も増加傾向になってきました。
表4 医療機器保守管理業務
区分 | H20年度 | H21年度 | H22年度 | H23年度 | H24年度 |
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輸液ポンプ | 3448件 | 3620件 | 4262件 | 4266件 | 4996件 |
シリンジポンプ | 2102件 | 2301件 | 3052件 | 2951件 | 2848件 |
人工呼吸器 | 320件 | 257件 | 362件 | 308件 | 355件 |
ベッドサイドモニタ | 250件 | 150件 | 107件 | 247件 | 274件 |
その他の医療機器 | 495件 | 500件 | 480件 | 568件 | 773件 |
医療機器修理業務
小児センター内で使用されている医療機器(放射線科、検査科、薬剤部が管理する医療機器は除く)の修理はすべて臨床工学室がその修理の窓口になりその故障内容を確認した後修理を行っています。 使用中何らかの原因で故障(自然故障、人為的故障)した場合、その部署は故障の状況と原因を臨床工学室へ報告し対応する形を実施しています。故障状況によっては部品交換で修理可能な場合も多くあり極力ME室で修理をおこないます。しかし故障の程度、内容によってはメーカーに修理を出さなければならない場合もあり、各メーカーと協力しその原因究明もおこなうようにしています。当センターが新しいことから医療機器も最新の機器がそろっています。医療機器が故障を起こす頻度はまだまだ少なく、今後の使用状況によっては故障または破損する頻度は増加してくると予想されます。
表5 医療機器修理業務
区分 | H20年度 | H21年度 | H22年度 | H23年度 | H24年度 |
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輸液ポンプ | 169件 | 162件 | 166件 | 137件 | 85件 |
シリンジポンプ | 38件 | 57件 | 50件 | 75件 | 57 |
人工呼吸器 | 31件 | 50件 | 38件 | 29件 | 9件 |
麻酔機 | 19件 | 20件 | 23件 | 16件 | 5件 |
ベッドサイドモニタ | 31件 | 4件 | 35件 | 52件 | 80件 |
その他 | 196件 | 155件 | 171件 | 169件 | 283件 |
計 | 484件 | 448件 | 483件 | 478件 | 519件 |
スタッフ紹介
- スタッフ
- 早川 政史、 亀井 祐介、 池田 誠、 中前 慶亮、 松原 伸太郎、 松村 雄基